「天童旅行記」 第十話 | 月下の調べ♪のステージ

「天童旅行記」 第十話

第十話「二日目の夜」


シャトルバスに乗り込んだ我々は、市役所前へと戻る。車中では、隣に座ったパブルさんと、指導将棋の検討会。「こうやられたら困ってたんじゃない?」「あーなってこうなるでしょ。そこでこう飛車を回る手を考えていたんだ。」空中の盤面が、人差し指と、符号の言葉で動く。


市役所からは正宗号で、途中銀行に寄ってから、二見館へと戻る。正宗さんは明日仕事のことで、今日中に仙台に戻ることになった。「それじゃぁ、またネットでお会いしましょう」。をいらたちは明日も休みをとっているけど、一般の休日はもう終わろうとしているんだな。ロビーでは、パブルさんが新潟で買ってきたという馬券を携帯のディスプレイと見比べて、やったあ!万馬券が当たったらしい。をいらも銀行で、お金下ろしておいたんだわ。明日は追加の御土産が買えそうやね。


一緒に出たはずのセルシオがなかなか戻ってこない。「だいじょうぶですかぁ?」同乗しているノリさんに電話すると、やはり道に迷っているとのこと。そう言えば、今朝もをいらの道案内がまずくて少し迷ったんだったな。パブルさんも初日に二見館に来るときに少し迷ったみたいだし。観光案内のマップがあるから致命的ではないが、天童市街の道路は少しわかりにくい構造らしい。目印になるような建物が見つけにくいからだろうか。方向感覚が狂いやすいような気がする(この旅行記を読んで天童へ行ってみたいと思った方は、注意してくださいね)。


 そうこうしているうちに、皆さん無事帰還。温泉に入りましょうか。いててて。日焼けしたらしく、顔がヒリヒリする。同じ湯船で江戸川さんとしばし歓談。こんなに楽しいイベントだったなんて驚きでしたねと話をしながら、めずらしく動き回った体をお互い緩める。


 夕飯までは将棋をして過ごすことに。風来坊さんに飛車を落として指したが、うわ、今日のふーさん、指導将棋で完勝しただけあって強い!積極的な作戦を取られ、簡単に負かされた。「飛車落ちなら江戸川スペシャルがありますよ。へへへ」いつもは平手で指している江戸川さんにまで飛車を落として指すハメに。悔しいから定跡形を外して戦ったが、もちろん勝てるはずがなかった。そうこうして遊んでいると、夕飯の時間になる。


 夕飯の時間、残ったメンバー(府中、ノリ、風牙、江戸川、駒ABC、風来坊、はぶはぶ、パブル、月下、以上敬称略)の9名は、全てインターネット将棋道場「将棋倶楽部24」上のサークル、「友遊クラブ」 のメンバーだ。友遊クラブは会員数150名程度と数あるサークルの中でも最大手の部類で、小学生から60代までと、幅広い会員がいる。会長である府中さんの日々の勧誘活動が功を奏してのものだが、ここまで手広くなると、仲がいい人ばかりというわけにもいかないのが実情で、最近もトラブルがあったばかりだ。


 こういうときは、サークルの話題を出してもいいんですよね。「府中さん、誰でも彼でも勧誘してらっしゃいますけど、友遊クラブをどういうサークルにしようとしてるんですか?全然見えないし、勧誘がいいとも思えないんですけど」と、日頃思ってて聞けなかったことを口にしてみた。軽い気持ちだった。しかしこの言葉を皮切りに始まったのは、意見交換会。そして分かりやすい言葉で語られた府中さんの「理念」と「夢」。友遊クラブを想う人たちが直接顔を合わせた場でならではの貴重な対話イベントとなった。この中身については、いずれ別の形で紹介したいと思っている。とにかく、友遊クラブが目指しているものがよく理解できたし、皆さんがどんなことを日頃考えているかも交換するいい機会になったと思う。


 夕食が終わったら、また将棋♪今度は、午前中に訪れた詰め将棋広場の問題 にチャレンジ!風牙さんがデジカメに収めたもを見て、5人ほどで束になってトライする。「この問題難しいんですよね~」「こうやると逃げられるから、同じコトを反対側でやって・・・」「ああここまで来たら、こうやって詰みますね」3人寄れば文殊の知恵、というが将棋指しが5人集まったら無敵!?中級までの10題が次々に解かれていった。しかしどれも味のある作品ばかり。へえ~と感心しながらの詰将棋鑑賞会のひととき。


 20:00になって、「義経」を観ますよ、と言っていた大河ドラマファンの府中さん、10分もしないうちにテレビの前でうたた寝をはじめた。あらら、お疲れ様。駒人間の役に、夕飯のときのディスカッションと粉骨砕身の一日、本当にこの方には頭が上がらない。


 そう言えば、をいらは昨日からずっと、一度も将棋で勝っていないな。このままでは悔しい。ようし、風来坊さんリベンジだ、角落ちで指しましょう!序盤少し押されたけど、風来坊さんの無理な攻めを誘って逆転に成功する。さあ追い詰めましたよ。竜を作られたけどこれは詰みですね~。参りましたと風来坊さん。あらら?これはもしや・・・。




やった!駒柱だあ!

(駒柱:同一列の全ての枡に駒が埋まっている状態のこと。対局中の局面として滅多に生じないため、縁起物とされる。)


その後も将棋や麻雀やテレビにうたた寝。思い思いに過ごして皆さんの夜は更けていった。