「社団戦レポート」(2) | 月下の調べ♪のステージ

「社団戦レポート」(2)

「それでは振りゴマで先後を決めて、始めてください」

大将が振り駒をして、奇数番のメンバーは大将の先後と同じ、偶数番は逆、という仕組みになっている。我々も含め、あらかじめ振り駒を済ませていたチームがほとんどで、開始の合図とともにバチバチと、重たい駒音が会場全体に広がった。長机の上に敷かれているのはナイロン製とはいえ紙のように薄い将棋盤で、プラスチックの駒がダイレクトに衝突するのに近い音がするのだ。やや不快な耳の感触と大規模大会なのだからしかたないという思いも束の間、目の前に自分と相手だけの空間ができていくとそれらはボリュームのつまみを誰かが絞っていくかのように、気付かないうちにフェードアウトしている。相手の三間飛車に居飛車で応じて相穴熊になった。

 

 居飛車対振り飛車は居飛車が主導権を握る場合が多い。をいらは積極的に仕掛けて、思い通りの形を作った。攻めの銀を捌いて、相手陣形を乱しつつ、角を成り込む。全然優勢だと思っていた。桂馬で飛車銀両取りをかけて駒得を図ろうとしたとき、相手の飛車が成りこんでくる。守備の駒が利いているところで読みにない手だったが、盲点でもあった。相穴熊戦の終盤戦では金銀が一番重要な駒になる。終盤戦に持ち込みつつ、飛車を捌く手で、こちらの飛車と馬が働きそうにない形になってしまっている。しまったと思ったときはもう遅く、勝負が決したあとだった。既に相手の攻めは切れない、攻め合いでも勝ち目がない、穴熊戦の恐ろしいところだ。

 

 負けまでのしかし長い手順を進めていると、左右からいろいろな声と音が聞こえ始めてきて、それは集中力が失われたことも意味していた。一方の持ち時間が切れ秒読みを示す対局時計のピッピッという電子音、「いけね~、勘違いしちゃったよ~」とボヤく声は江戸川さんのもの、そして対局終了を意味する「負けました」という声もちらほら、隣のタカシゲ君も投げる。どうもチームは劣勢らしい。をいらも団体戦の責任感というよりむしろ申し訳なさを感じつつ手数を進めていたが、詰めろ(玉が次に詰む状態)の受けがなくなったところで投了した。

 

 感想戦のあとでチームの成績を府中さんに聞くとなんと0勝7敗!棋力が対等ならまずありえない結果で、相手が悪かったと思うしかない。記念すべきデビュー戦は惨敗だったが、タカシゲ君以外にも無用な緊張感を持っていた方はいたはずで、いいテストマッチだったとも言える。次の対局はみんなリラックスして臨めるだろう。勝つべき相手に勝てればいいのだ。

 

 1回戦のあとは早速昼食になる。会場で販売されている750円のお弁当を、対局を終えた長机でみんなと一緒に食べた。「ちょっと遊ぼっか」手持ち無沙汰にしていたタカシゲ君と練習将棋を30秒の早指しで2局指す。タカシゲくんのうっかりをついて1戦目は大優勢になったが、彼の闘志に火がついて猛烈な追い込みを食い、ひやひや勝利。2戦目は彼が本来の調子を取り戻したか、乱戦形から彼独特の鋭い手が連発して完敗した。図らずも緊張をときほぐす効果が出ただろうか。