「不都合感知機」 (2) | 月下の調べ♪のステージ

「不都合感知機」 (2)

(2)


 なされるがままに、上着とネクタイを取られると、ドアの向こうに導かれた。仕事道具を置いたままのリビングの隣には、ダブルベットが占拠する薄暗い洋室があった。顔だけで触れ合って、しかしそこだけしか触れ合えないことに気付くと、その場で僕は着ているものを全て床に捨てた。女は首から脚からと、2つの手順だけでまとっているものをすっぽりと抜き終えると、ベッドの上で僕を待つようにこちらを向いて、既に横になっている。そこに僕は体を少し下にずらした位置であわせるように、飛びついた。

「きゃっ」

あせらなくていいのよ、という女の言葉に妙に納得して動作だけをスローテンポにしたが、気持ちのペースはもう速度を落とすことができない。上から下への一連の動作はオーソドックスな手順であったが、それは半分本能でもある。

「ん。」

ここか。口が商売の僕だが、こういうときに言葉は必要ない。右手と口を同時に使って、ひと山の間、責める。ひとしきり女の身体の反応を確認して、そろそろ前奏も終りだ。


「さあ、いくぜ」

準備を終えた、まさにその時であった。明らかに、玄関のドアが開く音。その意味を瞬時に理解した心臓が、僕の肋骨の内側で大きく前後したのがわかった。慌てて女から体を離し、あるはずもない避難場所、左右の大きな首振りでそのことを確認する。

「おうい、美鈴起きてるか」

なにかせずに居られない僕が、足元にあったカッターシャツだけを羽織って、2つめのボタンを閉じたときである。

「あら、力也、仕事じゃなかったの」

角ばったごつい顔の、デカい男が入ってきたのはあっという間だった。

「あ、なんやお前?」

トランクスのありかも判明せぬまま、僕はその男と対面した。醜い足がむき出しになっていたが、調度カッターシャツがかろうじてセーフの低さに達していた。男は僕のそんな意味不明の格好を視線を上下に往復させて確認すると、その部屋と女の様子から、玄関のドアが開くほんの少し過去のことを的確に想像し終えたようだった。

「てめえっ!」


 ボクシングはおろか、ケンカの経験もほとんどない僕は、体重の乗った右ストレートに対して目を瞑ることしかできなかった。首から持ち上げられたような感じがしたのは、体が宙に浮いたからだろうか。