「不都合感知機」 (3) | 月下の調べ♪のステージ

「不都合感知機」 (3)

(3)


僕は右頬の強烈な痛みと、カーペットの上は言え床に叩きつけられた衝撃でしばらく立てなかったが、幸か不幸か意識は失わずにいた、女と男がリビングに移ってしばらくヒステリックなやりとりをしていて、言い争いの度合いとさっきのパンチのそれが本気だったことから、少なくとも男の登場は予定のものではないことは理解できた。こんなときに不都合感知機が報せてくれればいいのに・・・。帰ったら「暴力はゴメンだ」とサブのアラーム条件を追加しておかなきゃ・・・。


「そもそも力也、仕事はどうしたのよ?」

「翔と力と三人で訪ねて行った先がよお、トンズラこいてやがったのさ」

女の逆襲でにより、言い争いのテンションが落ち着いてきたようだ。

「だいたいなんでそんな飛び込みのセールスマンなんかが部屋に入ってくるのさ?」

「入りたいような素振りだったのは向こうからなのよ!商品のデモをするからって、不都合検知器だとか感知機だとか言って。」

「不都合、何だと?」

2人が商品に興味を持ってくれている様子に、セールスマン以外の人種は持ち合わせていないアドレナリンが自然と体に充満してくる。そういえば、マイ不都合感知機の設定は「とにかく結果が出るならOK」なのだ。この2人は不都合感知機を買ってくれる客なのだ。ターゲットなのだ。そしてこれからが仕事なのだ。とうにテンカウントは過ぎていたが、僕はむっくり立ち上がると、産卵していたものを着衣し、仕事モードにおいてのファイティングポーズを取ってリビングに登場した。


「不都合『感知機』についてのお問い合わせですね?」

四本指をそろえた右手で、置きっぱなしになっていた不都合感知機新品のパッケージを指し示しながら言った。頬にはまだ強烈な痛みが残っていて、永年磨き上げてきた「不快感ミニマム声」が口ごもったようになって台無しだったが、あっけに取られたにせよ、男と女の興味を惹きつけるには充分だった。ネクタイと上着を手早く身に着けて準備完了、

「不都合なことを感知して、事前にアラームで報せてくれるというスグレモノなんです。例えば・・・」

簡単なプレゼンテーションから、商品のデモにと流れをつなぐ。