「不都合感知機」(4) | 月下の調べ♪のステージ

「不都合感知機」(4)

(4)


「・・・このように携帯できるタイプになっております。不都合条件は、前面のタッチパネルで選択できますよ。」

「ふうん。『ちょっとでも支障があったらダメ』『多少の困難ならOK』いろいろ条件が選べるのね」電源の入ったデモ機のパネルに、早速女が触れて試している。

「それでは奥様、設定をノーマルにして、夕食のお買い物に出かける準備をしてみてください」

女が着替えを済ませ、買い物の手提げに不都合感知機を忍ばせたところで、ほどなくしてピーッとけたたましくアラームが鳴った。わざとアラームの音量は大きくしておいたのだ。

「ええっ?どうしてなの?」

「奥様、マンションのお隣のスーパーでしたら、今日はお休みでしたよ」

「そうだわ!今日は第二水曜日で定休じゃない。」

眠気の抜けきれていなかった女の顔に生気が戻る。ありきたりのデモで一方の獲物は、落ちたことを確信した。

「ほほう?」

男の顔に表れていた猜疑心が、関心に変わる。


「ところで旦那さまのご職業は?」

もう一方の予定外の獲物は、このコワモテの旦那だ。携帯してこその不都合感知機。うまくすれば2台売れる可能性がある。ワザととぼけた質問に男が敵対心のこもった睨み返しをしてくるのは、想定していた。男の白のスーツに海をあしらったような派手な青の柄シャツ、なにより誇示するように首元に太く光る金のネックレス、彼の身なりは明らかに堅気でないことを物語っていた。ひょっとしたらどこか組に所属するヤクザかもしれない。ふっと鼻をならすと、男は視線を窓の遠くへ移動させながら、質問の回答を発した。

「まあ、言ってみれば金融業やな。」

男の印象から直感される悪徳業者だとか取立て屋だとかいう想像には深入りせずにおく。

「では、得意先を訪問なさるときに、先方がいらっしゃらなかったら、出かけるときに事前にアラームが鳴って知らせてくれます。」

セールス笑顔の攻勢に、「ふむ。」と男が振り返る。もはやその視線に敵対心は込められていない。


「さっきな、『仕事』で『お客様』が居らへんかったんや。とんだ無駄足やで。」

職業柄だからか訛りきっていない関西弁で、男のほうが語りだした。客が商品に利用価値を認めたときの反応である。『お客様』にアポを取らなかったのですか、という突っ込みは無意味だ。僕は男の語る事情にしばし耳を傾けることにした。