月下の調べ♪のステージ -4ページ目

「社団戦レポート」(5)

四回戦の相手は「TOKATSU2」というチーム。どうも「統括」チームなのでそれをローマ字にされたとのことのようだ。これまでの3チームと違ってあまり尖った印象を受けない、ほんわかムードのチームだ。

ちなみにチームのネーミングは自由で、楽しい名前は注目を浴びる。実例をあげてみよう。


 北千住猛爆隊 (ひよこ と たまご の2チームあります)

 フェアリープリンセス (女性ばかりのチームのようです)


楽しい仲間で作ったというのが伝わってきそうなチーム名ですね


 話を本題に戻そう。相手チームの特筆すべきところは、なんと言っても大将が少年だったことだ。このリーグで大将を務めるとなると、プロを目指しているコだったり、小中学生の全国大会に顔を出す強豪の場合が多い。うちのチームのタカシゲくんもそれは同じで、ひょんなところから交流が広がるものだ。もちとん今回のオーダーはタカシゲくんを大将にして、この少年とぶつける。


をいらの相手は体格のいいお兄さんで、年の頃は30前後といったところだろうか。同年代と勝手に思わせてもらって、ライバル心に火を灯し、本日最後の戦いに残った力を注ぎこむ。よろしくおねがいしま~す。相手は四間飛車から角交換を迫ってきて、向かい飛車からの速攻に切り替えた。あらら、これはどうやればいいんだ?対策がわからない・・・。随分持ち時間を使わされて、結局反撃の拠点だけを残して撤退せざるを得なくなった。


相手が攻め込んできてこちらの桂香をむしりとってくる。こちらも反撃の馬とと金を作って、桂香をいただきつつ、相手美濃囲いの堅い側面を攻撃にかかる。こうしてみると相手の攻めは手数がかかっているので結構いい勝負だ。香車で飛車を取られてしまうが、攻撃陣は相手の金を捕獲する戦果を挙げて終盤戦に突入する。


 桂馬と香車が多く手に入った。相手が馬を引きつけてきたのを期に、それを目標にして香車というロケット台を1つ、2つと設置していく。相手の美濃囲いは上部からの攻めに弱いのでこういう縦の攻めが有効だ。馬も捕獲できて、優勢を意識する。


 をいらが決め手を放った。詰めろ竜取りで事実上勝負を決着付けるものだったが、相手の方はそこから時間を使って大いに粘った。竜を取られて攻め手がなくなっても、と金攻めを狙われてジリ貧状態になっても、時間いっぱいに使って、とにかく詰まないようにと指してなかなか投げてくれない。左右の対局をみるとどちらも優勢で、遠くからの江戸川さんのボヤキも聞こえない。今回はチームは優勢のようだが、なぜか遠くの府中さんやたまさんたちギャラリーは緊張感を失っていなかった。


やがてをいらの相手は受けがなくなり投了。左右の対局も連鎖反応を起こしたかのようにばたばたと終局を迎える。他の対局は些少なりとも周りに影響を与えているらしいところが団体戦っぽい。チームの士気を考えると、をいらの相手がなかなか投げなかった意味も理解できるように思えた。しばしの感想戦を終え、まだ対局中のタカシゲくんの対局を観にいくことにする。

「社団戦レポート」(4)

3回戦の開始時刻を待つ会場は、勝っているチームはもちろん、うまく結果を出せないでいるところも、みんな活気に満ちている。一日中将棋を満喫できると言うこと自体が、ここにいる全員の喜びなのだ。あちゃ~連敗ですかと、某企業チームのとくもりさん(東京 30代?女性)は友遊クラブのメンバーで、以前から本大会に出られていたのだが、こちらの様子を伺いに来てくれた。4部リーグで参加されているらしい。4部リーグといえば、小学生ばかりのチームがあったり、女性ばかりのチームもある。ほんわかムードと言ったら失礼だろうか。傍から観ている側としては微笑ましい光景だ。子供たちの保護者のお母さんたちも来ていて、女性の彩があることがこの大会を華やかで楽しいものにしてくれているような気がする。


3回戦の相手は東京農大OB会、またしても学生将棋部OBチームである。前回までとちがうのは、をいらの相手が白髪交じりのおじさんだったことだ。社会人になってから本格的に将棋を始めたをいらは、社会人になってから将棋を始めても、それは楽しいものだし、もちろん強くなれるということを証明してみせたいという気持ちを持っている。正直に学生将棋出身の方を羨ましく思う一方で、負かしてやりたいというある種の敵対心があるのだ。今回は年齢の負い目はない。もし相手が居飛車できたら・・・まだ出していない得意戦法を胸に勝負に臨む。▲7六歩、△3四歩・・・。


 月下スペシャル炸裂~っ!


 オリジナル戦法がうまくいって、作戦勝ちから仕掛ける。おじさん「あっいけね~」大優勢に持ち込むことができた。あとは相手に桂馬を打たせないように、こうやって角を利かせておけば大丈夫。勝ちはすぐそこ♪、とノータイムで銀をタダ取りした手が、しかし致命傷となった。飛車を切られる手をうっかりしていたんですよ・・・。こちらの角が居なくなって、桂馬を打たれて、簡単に寄せられてしまった。・・・無念の投了。府中さんごめんなさ~い。おじさん御機嫌で「まさか桂馬打たせてもらえると思わなかったからさ、わはは」く、くやちい。局後の検討は短く終える。

 

 江戸川さんのボヤキがまた聞こえる。左となりのパブルさんももう負け寸前だ。また戦況は悪そうだな。パブルさんの最期を看取ることにしよう・・・。あれ?相手が飛車金両取の角打ちを逸する。飛車が逃げ回っているうちに徐々に相手玉が狭くなっていって、パブルさん得意の終盤の攻め合いの形になった。ようやく相手が詰めろを掛けてきたとき、パブルさんが香車を成り捨てて、桂馬を打って、飛車を切って・・・相手玉を詰ました!お見事~♪はぶはぶさんも勝って、チームは2勝5敗となった。


観戦のたまさん、「0勝、1勝、2勝ときたから、次は3勝だね」3勝4敗じゃチーム負けでダメじゃ~ん、と突っ込んであはは、和やかな雰囲気になる。楽しく応援してくれている人がいるっていうのは気持ちの面で大きいんだけど、それにしてもたまさんはいつも周りの人たちを楽しくさせるパワーに溢れた人だなぁ。そして、たまさんの一家がとても仲がいいのはこの人の力だということを、をいらは知っている。


 四回戦がはじまるまでの間たかしげクンと遊んでいると、たまさんがとある若い主婦らしき方とお話しているのに気付く。お知り合いなのだろうか?とちらちら監察してると、その方はどうも選手としてきている小学生?の女の子のママさんらしいことがわかる。そのメガネの女の子のピブスを見てみると、同じ3部赤リーグの「光OKACHI」チームじゃないか。いずれ当たるときがくる。あの女の子はどんな将棋を指すのだろう。その時が楽しみだ。


 そしてその2人に混じって話すにこやかな人が一人、あっ盲太さんだー!盲太さんはアメブロガー先輩で、持ち前の母性本能くすぐりキャラが奏功してお笑いブログ のほうは女性を中心に大人気だ。盲太さんとはゆうべ将棋倶楽部24でお会いしていて「よろしかったら応援に来てくださいね」とチャットで話していたのだが、義理に堅く女性に柔らかいこの方、きっと用事があったのだろうけれど、都合をつけて本当に会場に足を運んできてくれた。


 こうなったら特別出演だね♪


府中さんの粋なはからいで、まささんの代打として盲太さんが四回戦に出場することになった。

「大いなる潮流」 第五話

第五話「日本のバイヤー」

 

~1997年11月末 日本 東京都 東京(府中)競馬場~

 

吉岡輝文はジャパンカップ(日本 国際GⅠ 芝2400m)の当日、自己の所有するジェダイファームの所属馬クールミントガムのオーナーとしてパドックの中心にいた。パドックとはレース前に出走馬を引いて歩かせ観客に下見させるトラック形状の小馬場で、次の第11レースはスターホースの登場するGⅠとあって大勢のファンに柵の外を包囲されていた。クールミントガムは今日も気性が激しく、大きく首を上下に振って、手綱を引く2人の厩務員を困惑させていたが、吉岡はそんな何度も目にしている光景よりむしろ、初めて目の当たりにするサラマンドルの垢抜けた馬体にあらためて惚れ込みつつ、その落ち着いた様子に安心し切れないでいた。

──この馬が勝てば、無事に走りその能力を発揮さえすれば、日本競馬界とジェダイファームは世界に大きく躍進するはずだ──

信念と運命が、競馬という不安定な方法でテストされるという現実に、いま大きく揺さぶられている。今日はまさにそういう日なのだ。吉岡はサラマンドルを購入する資金の承認を得るに当たって、少々議論になったことを回想していた。

 

 

「あの馬には買い手がついていて、違約金、業界の信頼を裏切るリスクを考えると4200万ドルでないと応じられないって言ってきたわよ、兄さん。」

輝文の妹、淑子は、代表室に入るやいなや、サラマンドルの現オーナーであるクリーブランドホースクラブとの電話交渉の結果を口頭で報告した。彼女はジェダイファームの役員の一人で、国外渉外は統括部門である。代表室の来賓スペースのソファにはその室の主である輝文と、前代表で会長を務めている善弥が険しい顔で対峙していた。善弥は二人の父親でもあって、ジェダイは親族経営の牧場であった。先代の善弥の世界の血統と競馬運営方式を取り入れた革新的な経営によって戦後の日本競馬界のなかで大きく躍進を遂げ、今や競争馬と幼駒、繁殖馬併せて200頭を有する、一大オーナーブリーダー(所有者兼生産者)となっている。

 

淑子はここ数日の2人の議論にうんざりしながらも、サラマンドル購入に反対する善弥の側に座り、持っていたマーケティングの資料をガラスの灰皿の脇にわざと音が立つように置きつけたが、二人はその行為については特に反応しない。灰皿の中には二人が吸ったあとの煙草が中の純水を吸い尽くしつつあって、もうとっくに一掃すべき頃合いを過ぎている。

「日本にまだない新しい系統の種牡馬を輸入して、日本の牝馬にかけあわせて内国産の強い馬を生産していく。このやり方でこれまでも成功してきたではないですか。父さん。」

輝文は大きな瞳から発せられる淑子の視線は相手にせずに、善弥の説得を再開した。サラマンドルの購入にはこの会長職の父の説得が必要であった。

 

「確かに私は海外の種牡馬を積極的に取り入れてきた。しかしそれは日本馬のレベルが世界に追いついていなかった頃の話だ。世界最強レベルだったサンデーサイレンスの輸入で日本競馬は世界のレベルに追いついてきた。そのサンデーでさえ2000万ドルだぞ。凱旋門賞で勝ちきれなかった馬にこんな破格な条件はリスクが高すぎる。」

そういって、善弥は淑子が持ってきたばかりのマーケティング資料を輝文につきつけた。資料にはサラマンドルを輸入して種牡馬シンジケートを組む場合、出資者からの資金が不足していて、多額の自己資金が必要であることが示されていた。

 

「日本の競馬生産界は、まだ新しい世界の流行血統を取り入れることができないでいます。ミスタープロスペクター系の大種牡馬を手に入れる絶好の機会なんです。サンデーサイレンスのようなヘイルトゥリーズン系の繁栄の後に、相性のいいミスタープロスペクター系が繁栄するのは、アメリカで実績があることなんです。これは血統の歴史なんです。サラマンドルは日本で必ず成功し、世界のトレンドに追いつくことができるんですよ!あなたが夢見た、競馬先進国の仲間入りだ!」

輝文は、善弥の心に訴えかけた。「競馬先進国」それは善弥にとって果たせなかった夢であり、あまりにも遠かった道のりでもあった。後継者の息子は自分が歩いてきた道の到達点を見ているのだと気付くと、まだ若かった頃、マーケティングなどなしに、自分の相場眼で海外の馬を買いあさった日々が思い出され、善弥はここ数年来流れていなかった熱い血が自分の中に今うねりだしたのを止めたくない気持ちに駆られた。

 

「競馬とはレースに勝ったものがその血を残していく。日本のレースに勝った、日本のレースに適した馬がその血を残していくのが競馬事業の原則だ。」

しかし言葉はあくまで論理的である。論理は成功者が欠かしてはいけないツールだと、長男の輝文に教え込んできた帝王学を覆すつもりはない。

「ミスタープロスペクター系の日本競馬への適正が未知数というわけですね。では、ジャパンカップに勝ったら、という条件ならば?」

輝文は、咄嗟に思いついた案を、その名案ぶりに甘んじることなく真剣な眼差しとともに善弥に突き刺した。サラマンドルの強さが日本で証明されれば、国内の評価もあがるはず、ということは、目の前の競馬ビジネスの達人には説明する必要もない。

「出来高契約というわけか。うむ、よかろう」

 

 

「とま~れ~!」

パドックの周回が、号令によって一旦停止した。各馬に騎手が跨る時節の到来である。

Musical Baton風

友人、たつお氏のブログ から「ミュージカル・バトン」 なるものがまわってきた。キングコージ氏 の言うようにチェーンメールみたいなものかも知れないけど、5人にまわすのではなくて1人にまわすのなら面白そうなのでやってみることにしました。


【A1】Total volume of music files on my computer コンピュータ に入ってる音楽 ファイル の容量)

【Q1】4.53GB

レンタルのストックが多いので、ポップスが多いです。最近ではSWEET BOX や BEGINのアルバムを入れました。


【A2】Song playing right now (今聞いている曲)

【Q2】ベートーベン ピアノソナタ「悲愴」(S・ブーニン)

いつも聴いているのはたいていクラシック、ジャズ、フュージョンのいずれか。ピアノ絡みのものが多いのです。


【A3】The last CD I bought (最後に買った CD

【Q3】グレン・グールドエディション(21)「バッハ平均律クラヴィーア曲集」

余談ですが、グレングールドに関して最近DVDを借りまして、「EXTASIS」という彼のレコーディング人生の意味と魅力を深く掘り下げたもの。圧倒されました。


【A4】Five songs(tunes) I listen to a lot, or that mean a lot to me (よく聞く、または特別な思い入れのある 5 曲)

【Q4】カシオペア「Take Me」 小曽根真「Paradise Wings」 ショパン「バラード1番」 ショパン「幻想即興曲」 作者不明IF THE WORLD HAD A SONG

何度聴いても飽きない、という尺度でピックアップしましたが、それに該当すると言うだけなら他にもたくさんありますね。をいらの好みを反映して、最後の曲以外は全てピアノが出てきます。最初のカシオペア「Take Me」については、ベストアルバム版で向井実氏の生ピアノ演奏ものがお気に入りです。最後の曲は、白鳥英美子のアルバム「AMAZING GRACE」の中から選びました。落ち込んだときに聴くと勇気をもらえます。


ではこのバトン、熊野マキさん に渡して、女史のロック語りをとくと聞かせてもらいましょうか。


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熊野マキさんのご要望があり、別の方に回します。

洋楽が好きそうな盲太さん にバトンを渡してみることにします。

よろしくね!



「社団戦レポート」(3)

東京アマチュア将棋連盟のHP の冒頭写真をご覧になると判るが、我々も含め各チームはそれぞれオリジナルのピブス、というユニフォームとゼッケンの合いの子のようなものを着て対局する。友遊クラブのピブスはライトブルーがベースで、濃紺文字でチーム名が、黄緑色で1~7番までの番号がプリントしてある。インターネット将棋道場「将棋倶楽部24」 のロゴを、本部の了解を得て、入れさせてもらった。将棋倶楽部24はインターネット将棋道場の最大手で、日頃対局している人は多く、このロゴにはっとする人もいたりする。友遊クラブの名前を知っていたり、将棋仲間に会員がいたりしてその話題になることもある。サークルの宣伝のいい機会になっているようだし、初対面の人と話せるきっかけになるところも良い。


2回戦がはじまった。相手は「学習院大学櫻将会」。どうもこちらも学生将棋部のOBチームらしく、比較的若い社会人メンバーで構成されている。ふちゅうさんの戦略で少しオーダーを変えて臨むことにした。


をいらの相手は、こちらの四間飛車に玉頭位取りで対抗してきた。中央のごちゃごちゃした闘いを仕掛け相手陣が整わないうちに攻めあいに持ち込む算段だったのだが、なかなか捌ける形にさせてもらえない。これは相手、相当強いなと思わされたとき、をいらにミスがでて、それからは一方的に悪くなってしまった。完敗。


感想戦はそこそこにして、他のメンバーの状況をうかがうと、やはりというか、また誰も勝っていないとのこと。3部ってこんなにレベル高いの?と思わされるが、実力差は現実のものだ。残り対局がわずかになって、粘っていたはぶはぶさんの対局も最終盤を迎える。相手の指しまわしが見事で、狙っていた詰み筋をきれいに交わされて必敗形だ。2戦連続で全敗?悪い意味であり得ない話が現実になろうというとき、奇跡が起きた。両チームのメンバーの注目を感じたのか、相手が寄せ手の大事なところで、角をただ捨てのところに打ってしまうという大ポカをやってしまった。大逆転だ。対局成績は結局1勝6敗。


たまさん一家の三人がお出かけから戻ってきていた。たかしげクンの弟のピロくんの要望でお台場に行ったり、同じビルのバザーに行っていたらしい。とても仲の良い一家で、この三人も将棋をそこそここなすのだが、たかしげクンの棋力が際立っているせいか、今日のところは四人で同じ将棋を楽しもうという雰囲気ではない。たまさんのダンナさんが、携帯のゲーム機で遊ぶピロくんとじゃれ付いている。それを横目に、競馬の話題になったパブルさんとたまさん、をいらの三人が競馬新聞を中心に本日の予想披露。たかしげクンがそれに混じってきて「穴馬ってなあに」と聞いてくるので、人気薄の馬のことだと教える。競馬のことは、パパから教えてもらったのだろう。いつか一緒に競馬場に行こうな。


ところで実は、たまさんのダンナさんとはお話をしてみたかったのだ。をいらの今日の目標だった。打ち解けにくいらしい、という情報を入手していたのだが、うまく切り出すきっかけが結局つかめなかった。とても仲の良い一家の中心になっている、しかしあまり交流を望まないダンナさん。彼の気持ちを想うと、たかしげクンやたまさんと楽しげに話すばかりではいけなかったと後悔している。こちらから話しかけて、少なくとも安心させてあげなければいけないというのに。


 将棋も、交流のほうも、結果を出せないまま3回戦がはじまろうとしていた。


「社団戦レポート」(2)

「それでは振りゴマで先後を決めて、始めてください」

大将が振り駒をして、奇数番のメンバーは大将の先後と同じ、偶数番は逆、という仕組みになっている。我々も含め、あらかじめ振り駒を済ませていたチームがほとんどで、開始の合図とともにバチバチと、重たい駒音が会場全体に広がった。長机の上に敷かれているのはナイロン製とはいえ紙のように薄い将棋盤で、プラスチックの駒がダイレクトに衝突するのに近い音がするのだ。やや不快な耳の感触と大規模大会なのだからしかたないという思いも束の間、目の前に自分と相手だけの空間ができていくとそれらはボリュームのつまみを誰かが絞っていくかのように、気付かないうちにフェードアウトしている。相手の三間飛車に居飛車で応じて相穴熊になった。

 

 居飛車対振り飛車は居飛車が主導権を握る場合が多い。をいらは積極的に仕掛けて、思い通りの形を作った。攻めの銀を捌いて、相手陣形を乱しつつ、角を成り込む。全然優勢だと思っていた。桂馬で飛車銀両取りをかけて駒得を図ろうとしたとき、相手の飛車が成りこんでくる。守備の駒が利いているところで読みにない手だったが、盲点でもあった。相穴熊戦の終盤戦では金銀が一番重要な駒になる。終盤戦に持ち込みつつ、飛車を捌く手で、こちらの飛車と馬が働きそうにない形になってしまっている。しまったと思ったときはもう遅く、勝負が決したあとだった。既に相手の攻めは切れない、攻め合いでも勝ち目がない、穴熊戦の恐ろしいところだ。

 

 負けまでのしかし長い手順を進めていると、左右からいろいろな声と音が聞こえ始めてきて、それは集中力が失われたことも意味していた。一方の持ち時間が切れ秒読みを示す対局時計のピッピッという電子音、「いけね~、勘違いしちゃったよ~」とボヤく声は江戸川さんのもの、そして対局終了を意味する「負けました」という声もちらほら、隣のタカシゲ君も投げる。どうもチームは劣勢らしい。をいらも団体戦の責任感というよりむしろ申し訳なさを感じつつ手数を進めていたが、詰めろ(玉が次に詰む状態)の受けがなくなったところで投了した。

 

 感想戦のあとでチームの成績を府中さんに聞くとなんと0勝7敗!棋力が対等ならまずありえない結果で、相手が悪かったと思うしかない。記念すべきデビュー戦は惨敗だったが、タカシゲ君以外にも無用な緊張感を持っていた方はいたはずで、いいテストマッチだったとも言える。次の対局はみんなリラックスして臨めるだろう。勝つべき相手に勝てればいいのだ。

 

 1回戦のあとは早速昼食になる。会場で販売されている750円のお弁当を、対局を終えた長机でみんなと一緒に食べた。「ちょっと遊ぼっか」手持ち無沙汰にしていたタカシゲ君と練習将棋を30秒の早指しで2局指す。タカシゲくんのうっかりをついて1戦目は大優勢になったが、彼の闘志に火がついて猛烈な追い込みを食い、ひやひや勝利。2戦目は彼が本来の調子を取り戻したか、乱戦形から彼独特の鋭い手が連発して完敗した。図らずも緊張をときほぐす効果が出ただろうか。

「社団戦レポート」(1)

社会人団体リーグ戦(東京アマチュア将棋連盟 主催)、毎年6月~11月にかけて行われる7人一組の団体戦大会で、各リーグ内16チームの総当り戦が行われる。今回で16回を数え、参加チームは126チームである。選手の882人に多数の応援の方々を含めた1000人以上が、会場の「産業貿易センター浜松町館 」の3Fフロアに一同に会する。アマチュアのスター選手や有名な将棋愛好家、プロ棋士も来場したりして機会次第では直接お話できたりするところが魅力の一つだ。


我々インターネット将棋サークル「友遊クラブ 」が参加するのは今回が初めてのことだ。ほとんどのチームが会社や大学の将棋部、あるいは地域の将棋サークルで、純粋にネット将棋のサークルとして参加するのはどうも初めての取り組みらしい。


今回の出場メンバーは、ちっちさん(東京単身赴任 50代)、まささん(千葉 50代)、江戸川さん(千葉 50代)、パブルさん(長野 30代)、はぶはぶさん(東京 30代)、をいらこと月下の調べ♪(東京 30代)、それとタカシゲ君だ。チームリーダーの府中さん(東京 50代)は今回裏方及び控えに徹することになった。頭が下がります。


タカシゲ君はたまさんの息子さん。今年12歳で中学生になったばかりだ。今回の社団戦に出場するために、家族四人で遠方から上京して来てくれた。まだまだ将棋は荒削りの感があるが、中盤以降の激しい応酬に力を発揮するタイプ。将棋倶楽部24のレーティングでは最高が2000点を超えていて、今回のメンバーでは一番強いと言えるだろう。ポイントゲッターとして、また当チームの看板として、力を発揮して欲しい存在だ。


当チームは3部赤というリーグに組み込まれていて、今日は四回戦が汲まれている。持ち時間は30分で秒読みは30秒だからかなり長いほうの部類。長い対局は1時間半ほどかかる計算になるから、開始の10:00から昼休みも考えると終わる頃にはもうすっかり夕方になる。


試合開始前、をいらのとなりに座ったタカシゲ君はずいぶん緊張している様子で、しきりに話しかけてくる。彼と直接会うのはこれが3度目で、最初は人見知りからほとんど会話にならなかったが、生将棋をしたりお食事したりバドミントンをしたり、交流を重ねていくうちに自然に打ち解けてくれたのが嬉しい。大丈夫、対局がはじまったら自然とそこに集中するからと言葉をかける。


一回戦は専大グリーントップというチーム。専修大学将棋部のOB会とのことだが、皆さん若い。こういうチームは強い、というのが経験則である。をいらの目の前に座ったお兄さんも20代だろうか、少し尖った印象を受け、将棋もきっと強いのだろうと想像させられる。こういう相手はやっつけてこそ自信と調子がつくものだ、と闘志を充填したところで試合開始となった。


お知らせ

小説はここ数日、将棋に時間を割いていることもあって筆が進んでいませんが、取材も進めていますのでまた掲載いたします。

競馬ネタが中心になりそうですが、将棋ファンの方にも楽しめるものを織り交ぜながらと思っています。


明日は浜松町にて開催される将棋大会、社会人団体対抗戦(社団戦)に、「友遊クラブ」メンバーとして参戦してきます。インターネットサークルとしては初の取り組みのようですが反響や如何に。レポートも載せようかと思っていますので、お楽しみに。


では、いってきます。

「大いなる潮流」 第四話

第四話「現オーナーの期待」


米国 フロリダ州 フロリダ・トレーニングセンター 


「ラスト200m、13秒1。こちらでの最終調教も軽く追って順調ですな。」

エリック・サンダースは、ジャパンカップに出走するため米国内での最終調教をこなすサラマンドルの様子を、わざわざ早朝からチェックしにきていた。並んで立っているのは調教師のロバート・スペンサーで、左手で顔にかけていた双眼鏡と、右手で構えていたストップウォッチを両方同時に下ろしながら、「ええ。何の問題もありません。オーナー。」と調度言葉を返すところだった。調教の後にはすぐスタッフが馬運車でサラマンドルを空港まで運ぶ手はずになっている。

「グッドニュースだ。もしジャパンカップに勝ったら、規定の賞金の他に臨時ボーナスを追加することが、役員会議で承認されたよ。」


サンキューミスター、とがっちり握手を交わした後、スペンサー師は口元が持ち上がった笑顔のまま、サラマンドルを連れて戻る厩舎の調教助手たちに、

「ジャパンで勝ったら、ダンナからボーナスだってよ!」

とこれまでのこの名馬の取り扱いへの労いとも、これから日本に遠征することへの励ましともとれる言葉を投げかけた。

「ジャパンのバイヤーがね。破格の価格に応じる方向だというんだよ。先約があるから、違約のことも考えると4200万ドル以上じゃないと応じられないって回答したら、なんと用意するって言ってるんだ。」

「血統屋というものは、何を考えているかわかりませんね」

自分の範疇ではないとはいえ、自分が管理している競争馬のビッグな取引を目の当たりにして、馬に関しては常に冷静に対処できることが自慢のスペンサー師も胸が躍るのを抑えられなかった。4200万ドルと言えば、サラブレッドの、いや地球上で取引される動物の歴代最高額に匹敵する。


「所変われば品変わるってな。ミスタープロスペクターの系統は、日本やヨーロッパではまだ繁栄していないから、喉から手が出るほど欲しいってわけだろう」

クリーブランドホースクラブもブリーダー(生産者)ではない。サラブレッドをあくまで競争馬として購入し、優秀な馬は引退したら繁殖用に売却するというのがグループの一貫した方針だ。サンダース氏もまた、種牡馬については相馬眼に長けているわけではなかった。


「確かに、サラブレッドは品種改良の歴史といっても、その実は血統系統の繁栄と衰退の歴史ですからね」

スペンサー師は、オーナーが退屈しないように、ワイドな視点の話題に持っていった。

「そのとおり。いくら優秀な血統でも、同じ統ばかりだと近親ばかりになって配合が困難になる。ある程度強い系統が繁栄したら、次の新しく強い系統を駆け合わせていくしかないのさ。」

「それにしても理解できないのは、これでも破格だと思っていた2000万ドルという価格が倍以上になるって話ですよ。」


「欧州も、こちら合衆国も、競馬界は馬券という事業収入が乏しくなってきている。テラ銭(控除率)の有利なカジノがオープンだから、ギャンブルとしてのホースレーシングには誰も興味がねえってわけ。」

サンダース氏はチェッと舌打ちしながら、全盛期からはやや衰退した自分のグループのことをも思いやった。

「日本ではカジノは公認ではなくて、ギャンブルは全て公営なんですってね」

「G1ともなりゃ、1レースで馬券を何億ドルも売り上げるっていうじゃないか。その4分の1はお上がせしめるから、レースの賞金は高額だし、一部は生産界や育成者も潤うってわけさ。」

日本はビジネスターゲットさ、と言わんばかりで、サンダース氏はまだまだ希望を失っていない様子だった。


本分ではないといっても、オーナー達との交流はサラブレッドという高額な生き物を扱う調教師という職業においては重要な仕事の一つだ。スペンサー師もこのテの相手との付き合いにはもう慣れたものだ。プライドを持ち上げてやればいいことで、それはあまり難しいことではない。

「では現地で落ち合いましょう。オーナー」

「グッドラック」

そういって立ち去るサンダース氏は、いかにもご機嫌といった様子だ。

「大いなる潮流」 第三話

第三話「男の承諾」


「サラマンドルは確かに私の経営する種牡馬保有団体『セイラーズグループ』が買約済でした。契約書ももちろん合意時に交わしていたのです。」

ここからの部分の言葉はスムーズに流れた。説明用に事前に用意していた言葉だからだ。ボールディング氏は続けた。

「現オーナーは合衆国のクリーブランドホースクラブです。代表はミスター・エリック・サンダース。彼と直に会った席で交渉し、2000万ドルでサラマンドルを購入する契約をしたのですが、とんだ狐野郎でした。」

両手を、羽を折り曲げた降り立つカモメのように広げて困った顔をしてみせた。目の前の白スーツの男は押し黙ったままだ。

「契約書には40%、つまり800万ドルの違約金の事項が設けられていました。しかし、クリーブランドホースクラブはそれにもかかわらず、日本へ売却する交渉を秘密裏に進めていたのです。」


「契約違反はよくあることではないのか。そのための高額違約金事項だろう。」

男の視線がすこしきつくなったように感じたが、男が最後まで聞かないと納得しない相手であることは、つい先刻確認済みだ。ボールディングはその質問を待っていたかのように、少しにこりともにやりともとれるような笑顔を交えて、「ここだけの話ですが。ミスター。」と付け加えながらこう答えた。

「サラマンドルの種牡馬としての我々の査定価格は、4000万ドルなんです。サラマンドルの血統、ミスタープロスペクター系は、米国でこそすでに充分花開いていますが、我々、ヨーロッパ圏ではまだまだマイナー血統。しかもこれからヨーロッパで必ず花開く血統で、サラマンドルはその主軸になる馬なのです。これは2000万ドルの見込み利益があるビッグビジネスだったというわけなんです。」


勢いがついた調子で一気にまくしたてた。一息ついて、今度は右手を握りこぶしにして、ボールディングはさらに強い調子になった。

「だから、違約金では足りない!この裏切りは我々にとって大きな損害なんです!対抗する買い手も掴んでいます。ジェダイファーム。合衆国三冠のサンデイズサイレンスや凱旋門賞馬トニィビン、果ては我々ヨーロッパの英雄、20世紀最強馬と誉れ高いダンシングブレイヴまでも手に入れて、内国産馬で世界の舞台へ踊り出ようと調子に乗っている、あのジャップ連中だ!」


用意していた言葉に弾みがつきすぎて、あっ、しまったとボールディングは「ジャップ」と言い終わってから気が付き、不意に脇と顔に同時に流れた一筋のものの冷たさにぞくりとした。目の前の男は混血で国籍不明との情報だが、実は日本人かも知れない。心象を悪くしてしまったかという懸念は、しかしそれでも男のピクリとも動かない太い眉に支配された表情を確認して、杞憂に終わったと認識できた。こんなことは銃数年来なかった。本当に流れ出てしまっていた冷や汗を顔のほうだけぬぐいながら、今度は念のためなだめ諭すように、半分だけ囁く息が混じった声で言った。


「ジェダイはおそらく4~5000万ドルを用意しているのでしょう。クリーブランドの連中にとっては多少の裏切り行為であることを考慮しても充分に採算が取れる話だというわけです。ただしこれにはジェダイ側から『ラストランのジャパンカップで勝利する』という条件がついていまして、もしその場合はレース直後に帰国せず、現地で引き渡されるところまで話がついているようです。我々としては、馬を傷つけず、レースに負けてくれればいいわけですよ。300万ドル用意しました。調べさせてもらったが、あなたは過去にレース中に手綱を狙撃するという離れ業をやってのけている。」


「わかった。銀行振込が確認され次第、取り掛かろう」

男は全てを理解したかのようで、ボールディング氏のその、語尾に息が抜ける音が聞きとれる言葉が終わったと同時にこう言って、手にしていた吸いかけの葉巻をダーツを軽く放るのに似た仕草で下方に投げ捨て、それから背を向けた。

「おお!」

男がすんなり納得してくれたことによって、隠せない喜びがボールディングの両目と口を大きく開かせた。もはや事は成ったも同然だ。ボールディングは説得することだけに全精力を注ぎ込んでいたため、男が聞かずに狙撃を承諾した、口にしにくい続く言葉は伏せ、胸に秘めたままにしてしまった。


 ボールディングが振り返ると、いつの間にか後ろのカーラは起き上がっていて、立ち止まったままこちらを見ていた。いや、その視線の、凝視の先には、ポプラの並木道を立ち去る男の後姿があるようだった。